野田佳彦首相は米国ホノルルでオバマ米大統領と会談し、 日本国内で賛否が分かれる環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)について、 「交渉参加に向け、関係国との協議に入りたい」と伝えました。 21の交渉分野を持つTPPに参加すると、農業だけでなく、 医療や金融にも深刻なダメージが広がると懸念されています。 そうした問題への処方箋を示さぬまま、突っ走る姿勢には首を傾げざるをえません。
民主党内の反対派は、 「野田首相の判断は『事前協議』に留まり、交渉参加を表明していないので勝利だ」と 妙な解釈で戦いの矛を収めていますが、本当にそうでしょうか。 そもそもTPPは、現在交渉に参加している9カ国が承認しない限り、新規参加は認めない仕組みになっており、 米国では議会の承認に90日以上必要といわれています。 野田首相は「交渉参加」を決断したから関係国に「入りたい」とお願いしたのであって、 「事前協議」は最初から予定された手続きに過ぎないのです。
実際、野田首相はオバマ大統領に「国内で慎重論もあったが、私自身が判断した」と明快に語りました。 これを受け、米側は「野田首相は会談で『すべての物品、サービスを貿易自由化交渉のテーブルに乗せる』と言及した」と 発表しました。野田首相は帰国後「そんなことは言っていない」と釈明しましたが、米側に訂正は求めないそうです。 「交渉参加を決断した」どころの騒ぎではありません。
15日の参院予算委員会では、鹿野道彦農水相が首相発言について「交渉参加を前提としたものでない」と述べましたが、 慌てた野田首相が「交渉に入らないという前提もないし、入るという前提もない」と言い直す場面もありました。
私が覚えている「野田佳彦」という政治家は、逃げずに堂々と持論を述べる人物 だった筈です。 しかし国の形を変えるような一大事を、こんな言い方で国民をごまかしながら進めるなど、とても信じられません。 交渉参加を決断したのなら、コソコソせず、なぜ堂々と表明し勝負しないのでしょうか。 かつて小泉総理大臣は、多くの国民の反対があったにもかかわらず信念に基づいて「郵政民営化」を訴え、 国民に逃げずに議論を致しました。しかし野田総理大臣は、消費税増税も今回のTPPも国内では曖昧にしか説明せず、 海外で意思表明するという姑息なやり方です。国民をないがしろにしているとしか思えません。
TPPには、まだ疑問点が沢山あります。 野田首相は医療分野の協議について「国民皆保険が崩壊することはない」と説明しました。 皆保険制度とは、国民すべてが健康保険に入り、いつでも誰でも同じ費用で同じ医療が受けられるという、 日本の長寿社会を築いた世界に冠たる制度です。
しかし外務省は7日、「交渉で混合診療の全面解禁が議論される可能性がある」との見解を示しました。 混合診療とは、保険診療と保険がきかない自由診療を組み合わせたもので、現在は一部を除き禁止されています。 解禁となれば、特定のお金持ちだけが質の高い医療を受け、米国のように「医療格差」が起きかねないからです。
自国の薬の輸出を増やしたい米側は、保険診療適用に必要な「治験」が遅い日本に圧力をかけており、 いっそ皆保険制度など吹き飛ばそうとの思いもゼロではないでしょう。
金融面でも、「米が日本の郵便貯金や簡易保険の完全解散を求める」との指摘があります。 自民党も郵政改革は進めましたが、郵貯や簡保の必要性は認めました。現在も国民の皆さんが大切な資金を預けているのはご承知の通りです。 BSEの問題で輸入規制をしているアメリカからの牛肉の輸入については、早速規制の緩和が要求されました。
どうしても私には、米軍普天間飛行場の移設問題でしくじった民主党が、オバマ大統領の機嫌を取り戻そうと 「妥協カード」を次々と切っているとしか思えないし、民主党での外交交渉では アメリカから足元を見られ、 日本の国益を訴える事など到底出来るとは思えません。
早く政権交代を果たし、国益をしっかりと守る形での外交交渉をしたいと考えています。 |