「いま中東が熱い」を実感。
予算委員会の逢沢委員長を中心にして、7月1日から11日の日程で中東5カ国を訪問しました。最近の投機マネーによる原油高と食糧危機問題の現状や、アラブ各国の地域開発などについての視察を行い、各国の石油・ガス資源や金融担当の首脳と懇談してきました。
最初の訪問地はサウジアラビアでしたが、40度を越える温度と90パーセントに達する湿度にまず驚きました。中東での富の象徴である「冷房をガンガン効かせた部屋」から一歩外に出ると、一瞬にしてメガネが曇り前が見えなくなります。
イスラム圏では戒律が厳しく、お酒を飲めないことは当然ですが、それにも増して「女性差別ともいえる習慣」にとまどいを覚えました。女性は全身を黒いベールで包み、目だけが開いているという状態で、さらに、車の免許を取ることも許されず、社会進出して活躍している女性はごく稀です。
そうしたイスラム世界の中で、私たちが訪れたジェッダという街はサウジの西岸にあり、紅海に面したかつての首都です。イスラム教の聖地であるメッカに近く、年間に数百万人が訪れる巡礼者の玄関口であり、貿易の中継基地であったため、人々の交流も多く開放的な印象を受けました。それでも街には、どことなくピリピリとした空気が漂っていて、「自由」に慣れた私たちは、多少の緊張感を抱かざるをえませんでした(しかし、先発した仲間によると「首都のリヤドに比べたらずいぶん緩やかだ」との事でした)。ここでは、日本企業が取り組んでいる石油化学精製事業と、海水の淡水化事業を見てきました。
2カ国目は、オマーンです。首都マスカットは低層の岩山が海岸線まで張り出した街ですが、アラビア海の外側、インド洋に面し、海上交通の拠点、ヨーロッパとアジア貿易の拠点として栄えてきました。オマーンはアラビア海の入り口にあるホルムズ海峡を領土に押さえており、また、インド洋の対岸がイランであるため、原油輸送と軍事の要衝です。
3カ国目は、バーレーンで、ここはイラン、イラク、サウジアラビアに面した、種子島ぐらいの面積しかない小さな島国です。中東では最初に油田が発掘された国ですが、もともと石油等の資源が少ないため、中東の金融センターの役割を果たしていました。しかし最近、ドバイやドーハなどが金融センターの役割を強めており、存在感が薄くなりつつあることに危機感を持っています。
4カ国目は、カタールです。この地に駐在されている北爪大使は長年の友人であったので、急遽、彼のもとを訪問しました。首都ドーハの名はサッカー・ワールドカップ最終予選での「ドーハの悲劇」で日本人には有名です。2016年のオリンピック招致に立候補し、東京と一緒に争いましたが、ドーハのほうはすでに落選が決定しています。ここは、世界有数の天然ガスの産地であり、その資金を基にして大規模なリゾート開発をしていました。また、カタールの皇太子はIOC 委員であり、オリンピック開催の候補地としては負けてしまいましたが、東京に招致するためにたいへん重要な人物なので、北爪大使にはそのお願いもしてきました。
最後はアラブ首長国連邦で、首都アブダビと、隣接するドバイを訪れました。日本にとってサウジとともに最大の原油輸入国であり、たいへん親日的な国です。石油開発はもちろん、最近の原油高による豊富な資金を運用するため「アブダビ投資庁」という政府の投資会社を作り、その運用に努めていますが、結果として「最近の石油高や食糧危機の元凶の一つ」などとも言われています。
また、アラブ首長国連邦を構成する首長国のひとつ、ドバイはたった150万人ぐらいの小国、それも本来のドバイ人は20数万人であり、残りはインドやパキスタンなどからの出稼ぎの人々によって成り立っている地域ですが、「ニューヨークの摩天楼」と見間違えるほどの超高層ビルが乱立し、さらに一面に新たなビルを建てるためのクレーンがひしめき合っている超バブリーな世界でした。金に飽かせた開発ですが、まだまだ資源が豊富にあり、「なんでも世界一でなければ気がすまない」ような勢いを感じました。
数十年前までの中東は、砂漠だけの何もない国々がほとんどで、沿岸部の一部がかろうじてヨーロッパとアジアを結ぶ貿易の中継地点でしかありませんでした。彼らは、宗教の戒律を重んじ禁欲的な生活を送っていました。しかし、油田が次々と発見され、世界的な石油需要の拡大によって国が潤うと、それぞれの国は近代化に向け急ピッチで動きはじめました。
海水の淡水化によって水を作り国土を潤し、また豊富な油と資金を使って、単なる資源の生産地から石油精製をはじめとした大規模な工業国へ、さらに金融センターを目指し、そして大規模な都市開発やリゾート開発を行っています。最高気温が50度にもなるドバイでは、街の中心に人工スキー場が、カタールではスケート場が建設されていました。どの国も本来の人口は少ないのですが、イランやパキスタンをはじめ多くの近隣国から出稼ぎを集め、たいへんな活況を呈しています。私から見れば、どうしてもバブルの感じが否めず、世界経済が密接に結びついている現在、未来に不安も感じてしまいますが、彼らは資源を持っているだけに強気です。
中東に対する多くの日本人の認識は、「油は出るけれど『砂漠とらくだ』の熱地で、女性はベールに身を包み西洋的な民主主義とは異なる戒律の厳しい異国の地」というイメージではなかったでしょうか。私自身も、中東情勢に明るい知人やメディアから最近の発展ぶりを見聞きしてはいたものの、いまひとつ実感がわきませんでした。しかし、今回の訪問を通じて認識を新たにしました。
彼らは、ヨーロッパ等から国づくりための専門的な人材を招聘し、単なる資源だけの国から先進工業国や一大金融センターへの転進を図っています。また、発展著しいインドとはごく短時間で行き来でき、さらにイラン、イラクを通じて中央アジアに近く、アフリカにも隣接するという地政学上のメリットを活かし、貿易上も軍事上も正に重要な地域になっています。
欧米の国々はもちろん、中国や韓国などが中東に積極的に進出していますが、日本の進出はまだまだです。私は、ただ日本企業の利益のためだけではなく、日本の得意とする環境技術などを積極的に活かし、地球温暖化対策の先端にいる日本の技術を役立たせるべきであると考えています。中東諸国の間でも日本企業の技術力についての評価が高まっており、彼らもそれに期待しています。それとともに、潤沢なイスラムマネーの日本国内への投資も、もっと呼び込む必要があり、そのためにも中東外交はますます重要視されていかなくてはなりません。
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