競技スポーツ強化のために、オーストラリアへ
1月14日から18日の日程で、スポーツ先進国であるオーストラリアを、JOCの関係者などと共に訪問しました。主な目的は、競技スポーツの強化策について学ぶことで、施設や制度を視察してきました。
私たちは、まず最初にスポーツ政策や戦略を担う「オーストラリアスポーツコミッション(ASC)」を訪ねました。ここは同国のスポーツ政策の総元締めであり、選手強化のための戦略を組み立てている、たいへん権威のある機関です。ASCでまとめられた意見や戦略は、間の部署を通さずに、そのままスポーツ担当大臣に具申されます。
この機関の下にいくつかの部門があります。その一つが「オーストラリアスポーツ研究所(AIS)」です。ここでは全国からトップアスリート(競技者)を集め、関連施設と連携しながら「世界で活躍できる選手」の育成強化を行っています。たとえば、低年齢から強化が必要な体操競技などでは、小学生くらいから有望な子どもたちを集め選手の育成、強化を図っています。大変合理的なシステムに関心するとともに、東京の王子に建設している日本のナショナルトレーニングセンターの運営モデルにしたいと思いました。
次に私たちは、政府のスポーツ担当責任者を訪ね、会談をしてきました。もともとオーストラリア人はスポーツが好きな国民ですが、スポーツに関する予算も多く、土地が充分にあるため施設も豊富です。また州によって少しずつ違いはありますが、子どもたちの課外活動を促進するために学校を年間4学期制とし、学期毎に2週間の休みを設けて、その間にいろいろなスポーツを楽しめるシステムができているということです。もちろん、この期間はスポーツだけでなく、自然体験や芸術文化など、さまざまな分野のプログラムに親しむことが可能です。この国は、日本と違ってスポーツを担当する役所が「通信・芸術・スポーツ省」となっていて、スポーツ局の中に「スポーツ産業」を含んでいる点もユニークでした。
そして次は、「アンチドーピング機構」を訪れました。アテネオリンピックのハンマー投げで室伏選手が、同じ競技で一旦優勝した選手がドーピングにひっかかり失格となったために「繰上げ金メダル」となったのは記憶に新しい出来事ですが、ドーピング問題は、これまで日本ではあまり表立って関心を持たれていませんでした。しかし、これからオリンピックやワールドカップなど、世界レベルの大会を招致するためには、この制度がしっかりしていないと相手にされません。オーストラリアは世界で最もこのシステムが進んでいる国だといわれています。
最後に、2000年に開催されたシドニーオリンピックの記念パークを訪ねました。ここで感銘を受けたのは、広大な土地にオリンピック会場を整備しただけではなく、企業や住宅などを含む総合的な「街」をつくったことです。この街づくりの責任者は都市工学の専門家であり、スポーツのみの発想で施設を建設したのではなかったことがよく理解できました。2016年の東京オリンピック招致に大いに参考になりました。
私はいま、スポーツ担当副大臣として文部科学省の中に「国家戦略としてのスポーツ」を考える勉強会を立ち上げました。スポーツは個人の健康や体力増進のため、またカラダだけでなく精神的にも大変効果がありますが、同時にトップレベルのスポーツ選手たちが世界的な活躍をすることは、多くの国民の共感を呼びます。昨年トリノで開催された冬季オリンッピクは、荒川静香選手のフィギュアでの金メダルによって救われましたが、全体的には大変残念な結果に終わってしまいました。そうした反省の上に立って、来年の北京オリンピックをはじめとして、各種の世界大会で大いに活躍できる日本選手(トップアスリート)を育成していきたいと考えています。
今回の訪問を終えて感じたのは、日本には選手強化のための司令塔(ヘッドクォーター)が存在しないということです。やはりヘッドクォーターは重要で、そのためには、体協やJOC、ナショナルトレーニングセンターなどの施設はもとより、子供の体力向上や、スポーツ産業などを含めた総合的な体制整備が不可欠です。オーストラリアスポーツコミッションのような機関を設け機能させていくためにも、スポーツ省かスポーツ庁を設置することがどうしても必要です。
「国家戦略としてのスポーツ」の勉強会は、6月末に当面の方針を取りまとめる予定です。
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